「古代氏族系図」の解読法

国宝】海部氏勘注系図 前書

古代史を解読するための史料の一つに「古代氏族系図」がある。古来数多くの「古代氏族系図」が伝えられてきたが、従来の系図研究に拠れば、これらの系図の多くは偽作・仮託であり、ほとんど歴史研究には使用できないと評価されたのであった。

 「系図」は現在の一般的概念で云えば、氏族の歴代を、祖先から現代に向かって、親子、兄弟などの血縁関係により繋いで記録した系統図と云えるであろう。

 例えば

という系図があれば、これは「甲」に始まり「戊」に至る四世代を記録したもので、「乙」は「甲」の児、「丙」と「丁」は兄弟で共に「乙」の児であり、且「甲」の孫であると解されるのである。

 ところが「古代氏族系図」の前半、神代や初期皇代の部分では、このような近・現代的な系図解釈で見た場合、辻褄の合わない記載が数多く見られるのである。そこで「古代氏族系図」の場合も従来の古文献研究と同様に偽作・造作・仮託ということになってしまった。

 しかし「古代氏族系図」は、次項に述べるような「古代氏族系図の仕組み」(昔の常識)により記述されているのであり、それはすべてが現代的な意味の万世一系的な記述形式(現代の常識)とはなっていないのである。従って、「古代氏族系図」を解読する場合は、「昔の常識」を復元する必要があることになる。

 このように、「古代氏族系図」を解読するためには、「古代氏族系図の仕組み」を復元する必要があるが、その前に系図の読み方として、次の二点にも留意しておく必要がある。

 一つ目は、「古代氏族系図」も現代的な意味の万世一系的に解読するのではなく、国史と同様に「紀伝体」として解釈しなければならないのである。それは、「古代氏族系図」の多くが国史に倣って作成されていると考えられるからで、次項で示す『尾張連系図』の部分はその典型の一つと云える。

 二つ目は、系図の読み間違いの問題である。現在流布している系図は、ほとんどが上に例示した系図のように、歴代を線で繋いだ系図である。これを「系線系図」と呼ぶが、この形式は本来「文章系図」として伝えられた系図を、見易くするために生まれた新しい形式であると云う。

 現在「古代氏族系図」と呼ばれるものは、元は古代氏族の「家記」そのものであった。そこでは当然「文章系図」として伝えられて来たのである。それは、例えば『先代旧事本紀』「天孫本紀」の「尾張連系図・物部連系図」や「地祇本紀」の系図部分の記述に相当するものである。

これらの「文章系図」を「系線系図」に改める場合、各世孫を系線で繋いだのであるが、その際に系図読み間違いが発生するのである。例えば、現在では系線で繋がれたものは「親子」と解してしまうが、譜の文章に「児」「父母」等と記述されている場合はそれで問題はない。しかし、そのような譜がなかったり、単に神名・人名が羅列してあるだけの場合は、厳密にはすべてを「親子」関係と断定することは出来ないはずであろう。

又、ある世孫に記述された「妃・妻」は、次世孫の「母」とは限らない。このような誤りを犯した系図を良く見かけるが、この場合も、「妃・妻」が次世孫の「母」と明記してない限り、次世孫は前世孫の「妃・妻」の児とは断定できないのである。国史を検証してみると古代社会は現代のように「一夫一婦制」ではなく、「多夫多妻制」であった。従って「妃・妻」が必ず次世孫の「母」であるとは限らないのである。ここに世系に対する誤解が生じる原因がある。

 いずれにしても、以上二点に留意の上「古代氏族系図」には対さなければならない。

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